「野火」(大岡昇平,1987,新潮社)を読了。
本作は、先日読了した「ひかりごけ事件」と同じテーマ、すなわち"食人"を扱っている。前出作がドキュメンタリーであるのに対し、本作は小説の体で主人公にその葛藤を語らせる。本作は初出が古い(1951年)ため言い回しが難解だったり現代の感覚に合わない部分もあるが、食人のくだりでその時代錯誤感を感じないのはやはりそれがヒトとしての誰しもが共通に持つ葛藤だからではないだろうかと考えさせられる。我々は食わずに生きている者はおらず日々動物にしろ植物にしろ殺して食っているわけだが、それが同族かそうでないかでこうも違うものかと思わざるを得ない。我々日本人は宗教的な影響の薄い民族ではあるが、本作ではキリスト教の要素が持ち込まれている。「この世は神の怒りの跡にすぎない」という絶望の結論に達した主人公はある行動をとるが、それを現代日本に生きる我々がどう捉えるかは、人それぞれ異なるものであろう。異常事態に陥り、理性を失うような場に遭遇しなければどう考え、どう動くか分らない生き物であるのもまた我々の真実である。
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